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I’m not prince

第1章 あの噂


「どうしたの?」
 先手を打たれてしまった。俺は、正直に言うわけにもいかないので、言葉を詰まらせる。
 上手く答えられない俺は、姫さんの次のセリフで、凍りつくことになる。
「ビッチに電話かけに来たの?」
 え? と、思った。
 姫さんは、そんなこと平気で言えるタイプだったのか。少し引く。
 しかし、俺は、声が大きい方だ。俺とすけべな仲間たちが繰り広げる下ネタトークの内容だって、同じクラスメートであれば、知っていてもおかしくない。姫さんは、俺のレベルに合わせてくれているのかも。
 じゃあ、いつも通り、俺らしく振る舞えば……。
「うん、あわよくば、ビッチに会えたらって!」
「そっかあ」
 姫さんが笑う。
 俺は、人の感情を読み取ることに長けているわけではない。けれど、姫さんのその笑顔は、偽りではなさそうだった。心から、俺のばかげた発言に笑っているようだ。
 俺も、笑う。
「よかったね」
「え、何が?」
「ビッチに会えて」
「え?」
 姫さんは、笑顔のまま、俺に一歩近づく。一歩、また一歩、俺に歩み寄ってくる。
 なんか、おかしい。
 え、でも、姫さんだし。幽霊とかじゃ……ないし……。
 この時、俺は、逃げていればよかったんだろうか?
「ななしくんって、えろいよね」
 姫さんが、俺の耳に触れる。
「……ごめんなさい……」
 姫さんから突きつけられる、紛れもない事実。唇だけ、かろうじて笑みを保つ。
 いつもなら、反省のない謝罪の言葉など、開き直ったように明るく言えるはず。なのに、今は、かすれていた。口の中がかわいている。
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