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十四郎の恋愛白書 1

第3章 No.3



やっと退院できたオレ。
退院翌日、久しぶりに定食屋への道程を歩んでいた。

ゆきはどんな風に出迎えてくれるだろうか。
自然と早足で進む。

しかし、定食屋にゆきはいなかった。いや、正確には、早退していたのだ。
オレへの手作りマヨネーズも作られていなかった。

「ごめんなさいね、土方さん。久しぶりに来てもらったのに、ゆきちゃんいなくて。大事な用事があって、ピーク時過ぎてから早退しちゃったのよ」

おばちゃんがお冷を出しながら謝る。

「いや、別に、あいつに会いに来てるわけじゃねぇし」

嘘だ。オレ、ゆきがいなくてメチャガッカリしてる。

「とりあえず、土方スペシャル頼む」

「はいよ。手作りマヨネーズじゃないけど、ごめんね」

ものの数分で出てきた、久しぶりにとぐろを巻いた土方スペシャル。

パクリ…。

こんなに、味気なかったか…?




帰り道、まだ少し疼く脇腹のケガに眉をしかめながら歩いていると、前方に最も会いたくない銀髪ヤローを見つけた。
直ぐさま方向転換し、別の道で帰ろうと踵を返す。
しかし、オレの足はそこで止まった。

ゆきが、いた。
銀髪ヤローの隣で笑っていた。

手を、繋いでいた。

2人の距離感は近く、それはまさに、恋人同士のそれで…。

「…っ‼︎」

銀髪ヤローがゆきの髪を掬い、そのまま頬に手を添え、キスした。

ゆきは瞬時に真っ赤になり、恥ずかしそうに俯く。

万事屋は優しく微笑むと、ゆきの肩に手を廻す。そのまま2人はゆっくりと歩き出した。


見て、いられなかった。
固まっていた足を無理矢理動かし、反対方向に歩き出す。
胸が苦しい。
隊服の上からギュッと心臓の辺りを掴む。

ゆきが“大事な用事”で店を早退したのは、万事屋に会う為だったんだ。

2週間も来なかったオレのマヨネーズ作りなんて忘れて、万事屋と会っていた。

万事屋に笑いかけ、手を繋いでいた。キスしていた。

ドクン!

鼓動が早まる。
なんだ、この胸が抉られるような痛み…。胸の中からドロドロと真っ黒な何かが溢れ出て…。

あぁ、これは嫉妬か…。
そうか。オレは、ゆきが、好きだったんだ…。





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