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第6章 ひとつ 吉太郎の語り ー焦げ白銀(しろがね)という雨垂れー


「…おひろさん、寒かないかえ?」

橋から落っこちて来る声にひろァ笑った。

竜胆ンはみ出た包みィ薄い胸ン上に置いて、一回だけ、ボンクラに手を振って見せる。

「…そっちィ行っちゃいけないかな」

ボンクラん台詞に焦ゲが身じろぎした。

「ねえ、おひろさん。側ィ行ってもいいかね?」

おでれェた。(驚いた)

声ン力ァ入って、言葉ン端っこがひりひり震えてる。見りゃアボンクラんヤツ、傘も差さねえで雨ン篠つかれてた。
ひろン粗末な木綿の単衣たァ比べモンにもならねェ仕立てンいい絹の羽織がしっとり黒染みて、ボンクラの撫で肩ァますますがっくり落ちて見える。

ひろは橋ン上から覗く優しげな顔ォ見て、首ィ振った。何回も、首ィ振った。

優しげな顔ァ泣きべそォかきそうンなって引っ込んだ。

後から黒染みた藍の羽織がフワッと広がって、ヒラヒラひろの膝ン上に落ちた。

「明日また来るよ」

消え入りそうな声がして、それきり。

…………。

焦ゲが隣で固くなってる。
おひろと、竜胆ン挿された包みと、藍の羽織と。
桶水ン天辺に居て黙ってじいっと眺めてる。

ひろァ膝を立てて羽織を引き上げた。腹の上まで羽織を掛けて、息を吐く。細くて弱弱してるが満足そうな深い息。

……わしは…。

言いかけた焦ゲがまた黙る。

ひろが胸に載っけた包みィ開いたからだ。

ぱっと明りが差したような気ィなった。
赤と黄橙、小指ン爪くれェな三角のちっさな飴がコロコロひろン胸から転がり出た。枡から溢れた小豆みたように、沢山、パラパラ転がり出た。

こらァ金花糖じゃねェか。

ひろンでけェ目が、更ンでっかく、でっかくなる。豆皿ほどもあるンじゃねェかってくれェでっかくなる。

飴玉ン匂いの粒が霧みたような細かな雨垂れ達ン纏わりついて、そこら辺みんな薄っすら甘くなった。

……かいらしよし…。(可愛らしいな)

焦ゲァ笑った。

見ぃ。ひろのえらく喜んである。嬉しいんやな。ええなぁ。

俺らン見てる前で、ひろァ黄橙の飴玉をひとつ、口に含ませてにっこりした。

焦ゲん言う通り、えらく嬉しそうだ。飴玉ン囲まれて、羽織ィ掛けて、嬉しそうに胸ン上から竜胆を摘み上げる。

しわくちゃの懐紙ィ引っ張り出して、手ェ震わせながら細く千切りやがンで何ィしてんのかと思や、ひろァソイツを竜胆ン切り口にくるりと巻き付けた。

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