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第6章 ひとつ 吉太郎の語り ー焦げ白銀(しろがね)という雨垂れー


お天道様ァ昇んのォ数いて六つ目。

ふぃっと焦ゲが桶ン底から上がって来た。

ぽたっと橋ン上からちっさな包みが落っこちて来た。

霧みたような小雨ン篠つく湿った日和。
薄ぼんやり空ン覆ったペラペラの雲を透かして、淡淡(あわあわ)したお天道様ァ寝惚けたみてェに灯ってる。

おひろは昨日ッから咳き込む他ァひとつも動かねェ。

「……おひろさん?寝てなさるのか?」

腹ァ立つ能天気な声ィ橋ン上から降って来た。ちっさな包みン落とし主だ。

……とんだ間抜けのし。

焦ゲが呟く。

怒っても憤ってもねェ。ただ苦くって情けなさそうな声。

わしらより長うひろを見とろうに、何がしたいのや、あの男は。

何も出来ねんだよ。あらァどっかンお店(たな)ン跡取り息子だろ。乞食女ィ構った挙句労咳を伝染されでもしてみろィ。えれェ事ンならァな。

えらい事になっとるんはおひろや。あの男やない。

雨垂れはいつもひとりだ。
今のこのおひろと同じ。

……でも大体の人ァひろや俺達たァ違う。ヤツらァ繋がりってモンを持ってる。血だったり立場だったり付き合いだったり、そらァ面倒くせェモンに縛られて、守られてる。

そいつは俺らが思うより、ずっと重たくて大事なモンらしんだ、焦ゲ。
オメェだって御殿の庭ィ居たときから、色々見て来てンだろ?わかってても言わずにゃいられねェんだろ……?

ちっさな包みから竜胆ンうっつくな花ァ零れてる。ボンクラ野郎の泣けなしン心映えだ。

焦ゲん言ってやりたかった台詞ゥごっくり呑み込んだ俺にゃァ、その花ン色が侘しいばっかり。

「おひろさん?」

また愚図愚図降って来た声に、おひろン目がぽかっと開いた。
腕を伸ばしゃ届くとこに落っこちた包みと、橋ン上の情けねえ顔ォ大儀そうにゆっくり見比べる。

「…按配が悪いのかい…?……このところ寝てばかりいるねえ」

焦ゲが息を吐いた。長い息を。

わしにはわからん。

低くて寂しげな声ァ焦ゲのじゃねェみてェに聴こえた。

ひろがそろっと腕ェ伸ばして包みン指ィ引っ掛けた。掌ン載っかりそうな包みは、そんでも今ンひろにゃ重たそうだ。

俺ィ腕があったら良かったなァ。
足ィあったら、良かったのになァ。

ぼんやり沈み込んだ俺ァ、思わず焦ゲん面ァ見た。

俺が思うならコイツァどうだえ?

もっともっと思ってねェか?

けど何をだ?

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