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第6章 ひとつ 吉太郎の語り ー焦げ白銀(しろがね)という雨垂れー


ハナっからヤツァ一緒ン逝く気だったんじゃねェかと今ンなりゃァ思わねェでもねェ。
そうでもなけりゃァ一緒ン居られる道理がねえもの。

でも俺ァ嫌ェ(嫌い)じゃねェ。バカだたァ思うし寂しくもあるが、天晴だァ。

何なら俺だって、もしかしたらよ。


俺ァ雨垂れ。吉太郎てェんだ。しがねえ身の上だが馬鹿にしたモンじゃねェ。それが証に一席打たせて貰わァな。ん?良しか?

俺にゃ長らく連れがいてよ。

ははァ、雨垂れにゃ珍しいてかィ?そらテメェでも思わァな。けどョ、何でかアイツたァぴったり昇ってぴったり降って…あ?息が合ってただ?ねェよ。たまたまだァ。あんな間抜け野郎と一ッ括りにされたんじゃたまったモンじゃねェ。クワバラクワバラ。
仲好しィ?何言ってやがんでィ!
よせやい、うるせェな!止めろ止めろ!
話ィ聞けってんだ!聞かねんなら仕舞うぜ、お?黙って聞きゃがれ。余計な口ィ挟んでみろ、次ァその口縫いあわすぞ、こンぼんくらが。…とと、言い過ぎたかィ?悪ィな。俺ァ口が悪ィからよ。ハハ。

でな?その間抜けが焦げ白銀ってェ妙ちきりんな名前のヤツだったが、名前に違わず変わりモン、寄りに依って人ン女の為に文字通り露と消えやがった。
悪ィヤツじゃねえ。悪ィヤツじゃなかったが正真間抜け野郎だてェんは違いねェや。
……馬鹿なヤツだよ、あの焦ゲッパチ…。馬鹿ンくせに、おっとこ前でよ。

なあ、雨垂れが人ン為に何かしようとするってェのがどんだけ突拍子もねェこったか、アンタィ判るかい?あんまり素っ頓狂でさ、道理に叶やしねェよ。俺らァ雨垂れ、水の粒だえナ。テメェの心ひとつで人ン関わンのァ難儀なこったし、でえてェ(大体)ハナから関わろうなんて思わねェのが常道だわ。

けど焦ゲのヤツァあの女ォ好いてやがった。

何でェ、そんな面ァすんじゃねェや。
言っちゃァ何だがよ?雨垂れンだって気持ちがあらァ。馬鹿ンすんなィ。

だからよ。焦ゲがあの女ィ(女に)惚れた、そいつは分かんねェでもねェ。
あらァ不細工じゃあったが、頑是ねェ(幼い)ぶん心根ァうっつく(美人)で、人なんかに産まれて来ねェ方が良かったのによって思ったモンさ。
ああゆう手合いは山や河に成るべきだぜ。もってェねえ事しやがるやな、天帝様もよ?
ロクでもねェ山や河が俺ン同胞をどっさり抱え込んで威張り散らかすのォ見ンのは気分が良いモンじゃねェ。
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