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第11章 斎児ーいわいこー



「おめぇは"おと"の大事な末ずえだ。"おと"の大事は俺の大事、誰が何をしようたって俺が悪いようにゃさせやしねえよ」

どこから出るのか不思議なくらい大きな声で弥太郎ががなる。葉擦れの音が、強く弱く、まるで嘲笑っているみたいに揺れる。
弥太郎の手がぐいと更に突き出され、私はぎゅっと目を閉じてその手を握った。

あったかい。

葉擦れが止んで、雨が弱まる。
弥太郎の朗らかな声がやけにはっきり聞こえた。

「ははぁ。ムレも悪いようにゃしねぇってよ。良かったな。山神が女を歓迎するなんざ、まあこりゃ大したもんだ」

急にしんとしたのが逆に怖くて恐る恐る目を開ければ気が抜けた様子で、でも清々と笑う弥太郎がいた。がっちり握っていた私の手をぱっと放し、目を細めて辺りを見透かすように見渡す。

「どのみち青瓢箪に会いたきゃまずムレに挨拶だ。そうすりゃサクにも会うことになるだろうな」

「サク?」

「ムレのとっときだ」

周りを見回すのを止め、弥太郎はまたちょっと不思議な表情で私を見た。右と左、それぞれ両の手で大事なもの同士の重さを量るような、慎重で考え深い顔だ。

「ちょいと変わっちゃいるが悪いヤツじゃねぇよ。アイツが厂暁の山越えの手引きする。ことによったらおめぇも世話になるかも知れねぇな」

























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