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第11章 斎児ーいわいこー



「道祖神が増えたせいで田の神の身から里の神へ祀り上げられた人好しが道理よ。面倒な神籍を降りて身軽になる良い機会だったのに、我が弟ながら全く度し難い」

人の悪い笑みを浮かべ、無理は空の盃を指先で玩んだ。

「人好しらしくあれには私とはまた違う考えがある。その道理の尻馬にのってうちの路六が余計な世話を焼きたがっているようだが、訳はこの通りだ。サクのことは捨て置け。お前が関わり合うことではない」

関わり合うことではない…。
私は通りすがっただけの余計者、無事山を越えて目当ての寺に辿り着ければそれでいい。無理の言うようにサクのことは捨て置けばいいのだ。
サクの、八重歯の覗く無邪気な笑顔が浮かんだ。声は気味悪く、八重歯も見苦しい。笑わぬサクの方がずっと美しい。でも、とても良い。とても良い笑い顔だ。

「…私はどうしたらいいのでしょう」

ポツンと、洩れ出た。

「どうしたらいい?私の話を聞いていなかったのか、この間抜け」

無理の投げた盃がすかんと頭に当たった。

「何もするなと、そう言ったばかりだろう。お前のその剃り上げた禿げ頭は飾り物か。どうせ飾るならもっと見目良いものを飾れ。面白くもない」

この山のものは手が早く口が悪い。むくれたくなるのをぐっと堪えて頭を撫で擦っていると、無理が鼻を鳴らした。

「人のことより手前の世話よ。惚れた女を捨て、世話になった寺を逃げ出して、それでもまだ坊主でいようというのか。下らぬ物思いに囚われてばかりおるくせに情けない。お前の迷いは見苦しい。私は見苦しいものは好かぬ」

「見苦しいも何某か善いものと表裏を結びはしませんか」

「せんわ、阿呆」

無理が呆れながら掌を上向けた。盃を拾ってよこせということかと思ってそうしたら、怖い顔をされた。

「馬鹿者。床に落ちたもので酒が呑めるか。沢で洗い清めて来い」













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