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第11章 斎児ーいわいこー



耳に痛い弥太郎の言い分を、頭を垂れて甘んじて聞く。

「まぁよ、何だって構やしねぇんだよ、おめぇのことなんか!俺が面倒臭ぇんじゃなけりゃ!巻き込むから文句を垂れてんだ!山歩きたいから付き合えって、女子供か!ツルッ禿の分際でよ!見るもんなんかねぇよ、こんな山奥じゃ!あ。……沢で泳ぐか?そんなら付き合うぞ」

今いる崖道から落ち込んだ斜面の下を寒々と流れる山水を見下ろし、私は首を振った。どう考えてもまだ水が冷たすぎる。心の臓が止まりかねない。

「俺は河童なんだよ。泳がせろ」

「なら戻ろう。ここで泳ぎ初めて置き去りにされては、私はサクの小屋までも戻れない」

「適当に歩いてりゃどっかにゃ着くわ」

それは何処かには着くだろう。多分。しかしその何処かが何処になるかで場合によっては大問題になる訳で、今右も左もわからないままこんなところに置き去られてはまず間違いなく大問題になる。

「河童は水ん中にいるもんなんだよ!馬鹿面下げてそこらへん歩き回る河童なんかいねぇんだよ!」

「あ…」

怒鳴り出した弥太郎の右手側、背の高い藪がガサついて熊が顔を出した。出会い頭に河童と坊主、熊も驚いたのだろう。立ち上がって唸り声を上げる。赤い口に並ぶ牙と黒い毛皮から突き出た爪が生々しく、私はよろけながら一歩下がった。

「く…くま…」

「誰かに見られでもしたらどんだけ間抜けだと思ってんだ、坊主と河童、坊主と河童のぶらぶら歩きだぞ!?馬鹿みてえな組み合わせが馬鹿みてえな面して馬鹿みてえに歩いてりゃ、俺だって笑うわ。皿が割れるまで笑うわな!」

腹立ち紛れに怒鳴りながら、弥太郎はひょいと熊と向き合って、その前肢を我の腕で掴んだ。

「おめぇ、何やらかしてこんなとこに来たんだ?早いとこ去ねよ。俺ァ元々食えねえ生きもんは大嫌いなんだよ!」

がっぷり四つに組んだ熊を、弥太郎が軽々と投げ飛ばした。ポカンと口を開けた熊が目の前を過って崖下の沢に落ちて行く。

「…………」

恐る恐る覗き込むと、熊が這々の体で沢を泳ぎ、岸に上がって木立に逃げ込む様が見えた。あたふたした様子が人のようで可笑しいやら哀れやらで、何とも言えない心持ちで振り返ると、弥太郎が腕組みして顎を上げ、私を睨み付けていた。

「話を聞けよこの野郎!弥太郎河童を蔑ろにすんじゃねぇ!おめぇも沢に投げ込むぞ、ああ!?」

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