第10章 丘を越えて行こうよ

｢お前ってさ。顔は優しそうで可愛いけど、中身はマングースだよな｣

｢マングース？｣

｢あのコブラとか噛み殺すヤツ。動物みたいってか動物？昔ショーとかやってたよな、沖縄だかどっかだかで｣

｢…アンタってさ。見た目は悪かないかも知んないけど、中身は雑だよね。いや、見た目通り雑なのか？兎に角、付き合い長くなきゃ全然好きになれないタイプだね｣

｢おー、サンキュー。全く同感だわ｣

店の駐車場に停めた愛車に顎をしゃくり、敏樹はまたキーチェーンをジャラジャラいわせた。

｢乗れよ。浜源で鍋食うんだろ？｣

｢マジで？｣

｢違うのかよ｣

｢いや、アンタも誤解を恐れるクチかと…｣

｢一也と一緒にすんな。俺ァちゃんと彼女いんだから｣

｢それじゃますます誤解されちゃマズイんじゃないの｣

｢相手が先に誤解されそうなことしてたら構わねえんじゃねえの？｣

｢うえ。やな考え方だね。何、浮気でもされてんの｣

｢浮気!?まさかだべ｣

｢あそ。何でもいいけどアタシはごたごたに巻き込まれるのはやだからね｣

｢お前相手じゃごたごたにもなんねーよ。誤解も何もあったもんじゃねえし｣

｢お相手はアタシも知ってるコ？｣

｢………どっちだっていいじゃん｣

｢ふーん？｣

｢相談するとき話すから！変な顔で見んなよ、こっちを！｣

｢なーにひとりでイライラしてんだか。一也に出し抜かれて焦ったか？｣

｢そりゃお前だろ。てか一也と加奈子はそんなんじゃねえし｣

｢じゃどんなんよ｣

｢どんなんてそりゃ………そんなの俺が知るかよ｣

｢何だそりゃ｣

｢どんなんかはわかんねえけどあのふたりはそんなんじゃねえの！絶対違うから！おら、置いてくぞ！｣

｢や、置いてかれても大したこたないけど、何？アンタひょっとして加奈子さんと付き合ってる？｣

ぴたりと敏樹が黙った。

｢はー。成る程ねぇ｣

詩音は軽バンが走り去った方と敏樹を見比べて感心した。

｢一也もやるじゃん。まさかアンタの女に手を出すとはね。ま、アイツは昔っから加奈子さんにはデレデレだったし、意外じゃないかな？｣

｢だーから違うって言ってんだろ!?一也も加奈子もそういうことするようなヤツらじゃねえの！｣

｢そうねー。どっちも軽々しく異性と二人きりで出掛けるようなタイプじゃないわよね｣