第1章 劣情の視線
「その時の顔が凄く頭に残ってて、気になり出すと止められなくて、正直あんたのことばっか考えてて・・・」
何も言葉の出ない俺をチラッと見て苦笑する水戸。
「いきなり、なんかすんません」
バツが悪そうにすぐ視線を外し煙草に火を付ける水戸に未だに何も言えない。
え、俺、もしかして、水戸に告白されてんの?
その考えが頭をよぎった瞬間、何故か顔が熱くなり思わず500円玉を机に置いて立ち上がった
気持ちわりーって笑って済ませれば良かったのに
動きだした体が導くのはこの場を離れるということだけだった
「-------っ葉月さん!ごめん!」
ガタッと慌てて席を立つ水戸の気配を背中に俺はそのまま店を後にする
笑って済ませれば良かった
なんでこんなに熱くなってるんだろうか
水戸の言葉がまとわりついて
早く振り払ってしまいたい
グイッと体を揺さぶられ、強い力で腕を取られたことに気づく
「葉月さんっ、あんたっ足早すぎ」
軽く息を乱した水戸の目と合い
さらに顔が熱くなる
思い出した
あの時
俺に、俺だけに向けるその熱っぽい視線に俺自身も興奮したのを
「葉月さん、俺、あんたのこと忘れられなくて・・・」
ゾワゾワと這い上がるこの冷たい熱がなんなのか考えたくなくて、水戸の手を振り払う
右腕が疼く
「俺はっ・・・」
拒否できない水戸の視線
「あんた、なんて顔してんだよ・・・」
「-------っ」
どんな顔してるのかわからない
ただその言葉と視線で水戸が興奮しているのがわかった
「水戸・・・俺・・・」
ゾワゾワと
水戸の視線に囚われ、言葉も体も動けない
「葉月さん・・・この後うち、来ません?」
その言葉を拒めない
あの時から俺も
こいつも
あの熱を持ったまま
止まったままだったのかもしれない
疼く右腕を取られたまま
これからどうなるのか想像するのをやめてひたすら前を進む水戸の背中を見つめた