第8章 夏の始まりと合宿と…
「ありがとうございます。すみませんでした。」
そう斎藤先輩にお礼を言うも、さっきまで場違いな浮かれ気分だった心は完全にしゅんとしてしまって、自分の情けなさと斎藤先輩達への申し訳なさで泣きたくなってきた。
「傷を作ってまで作ってくれた夕飯を感謝して食べなければな。」
落ち込む私にそう言ってくださった斎藤先輩の目は、とても優しくて、ますます泣きたくなる。
そんな私の頭を斎藤先輩はぽんぽんと優しく撫でて、水に濡れたらしみるだろうが…と、心配までしてくださった。
斎藤先輩は優しい。
もう一度、深くお辞儀をして、
「ありがとうございましたっ」
と言えば、さらに優しい笑みが返ってきて、私のドキドキはさらに高速になった。
そしてお稽古場を出る時に…斎藤先輩はこんなことを呟いた。
「普段は稽古場にあんたがいるから、いないと少し物足りない気がするな。」
え?今なんて…?
とってもうれしいことを言われた気がするのだけど…
斎藤先輩の方を見ると、少しニヤリと悪いお顔になって、
「では、戻る。」
と、お稽古に戻って行ってしまった。
なんだかドキドキが止まらない。
早く戻って、夕飯の仕度の続きをしなければいけないと思いつつ、しばらくその場から動けなかった。
今日は合宿最後の日。
斎藤先輩は今日も空を見上げに来てくれるかな…
きっと来てくれる…
昨日は見えなかった星を、今日は一緒に見れたらいいな。
ドキドキの音が、斎藤先輩に聞こえてしまわないようにしないと。
私も…いつか斎藤先輩をドキドキさせることができるようになりますように…