第8章 夏の始まりと合宿と…
「あの…ありがとうございます。すみません…」
今にも泣きそうな顔をしながら、ジャージのポケットに手を入れて、なんだかごそごそしてる。
そして、ポケットから…
「ちょ…お前赤チンなんて持ち歩いてたのか。」
おもむろに赤チンを取り出した夢主(妹)ちゃんに、左之先生は笑い出す。
「まるで近藤さんみてぇじゃねえか。」
そう言って、土方先生も笑い出した。
僕が夢主(妹)ちゃんを気になり出したきっかけ…それがその赤チンなんだけど…
まさか持ち歩いてたなんて。
やっぱり夢主(妹)ちゃんは面白い。
僕も笑いが止まらなくなった。
「え…?先生達なんでそんな笑って…?沖田先輩まで…」
擦りむいた膝の血をティッシュで拭いて、赤チンを塗ろうと蓋を開けていた夢主(妹)ちゃんは、笑い転げてる僕達の様子を不思議そうに見てる。
そんな夢主(妹)ちゃんに土方先生がぽんぽん、と頭を撫でて、
「まさかの赤チンにゃ驚いた。ずいぶんとかわいいじゃねぇか」
そんなことを言うもんだから、ほら…
夢主(妹)ちゃんは真っ赤になって口をぱくぱくさせてる。
ちょっと土方先生。それ、僕の特権なんだけど。
そう口に出しそうになったのを堪えて、
「いい大人が女子高生からかって…土方先生、エロオヤジみたいですよ。」
そう言えば、
「総司てめぇ…もう一周走りてぇか?」
そんな言葉が返ってきたけど…
なんだかすっきりしない。
あの真っ赤な顔も…赤チンを愛用してることも…
僕だけの秘密だったのにな。
夢主(妹)ちゃんはおんぶしなくても大丈夫で、僕達はゆっくり走りながら合宿所へ戻った。
戻って、広間へ向かうと、朝食の準備を終えて僕達を出迎える、夢主(姉)ちゃんと千鶴ちゃんと井上先生の姿。
左之先生に、
「ご苦労さん。うまそうだな。」
なんて言われて、見たこともないくらい乙女な顔になっちゃってる夢主(姉)ちゃんに、
「合宿中にいちゃいちゃしないでくれるかな。」
なんて、八つ当たりをしてみたりして、なんだかすっきりしない気分を晴らすことにした。