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【薄桜鬼 トリップ】さくら玉

第10章 1865年 元治二年


置屋の階段を隅から隅まで拭き終えれば、なんだかすっきりした気分。

お掃除って頭をすっきりさせてくれるなぁ…

体は疲れているけれど、心はすっきり気持ちがよかった。

冷たい水で雑巾を洗って、大部屋の自分のスペースに戻る。

山南さんに貰った藍染の振袖に着替えて、お稽古へ。

この着物は、お姐さん達に評判がよかった。

贈ってくれた人との関係を聞かれて、「初恋の人です」なんて言葉が勝手に出てきて…それをきゃあきゃあと言いながらお姐さん達は聞いてくれたりして…

私にはそんなささいな女の子な会話が嬉しくて楽しくて、うきうきした。

ありがたいことに、お姐さん達はみんな厳しくも優しい人ばかり。

同僚と呼ぶべき見習いちゃん達は、やっとお稽古をつけてもらえるようになった時に、中途で入った私が下積みをせずに自分達と同じ扱いになる事に不満がある子もいたみたいだったけれど。

誰よりも早く起きて、誰よりも沢山掃除をして…正直この2ヶ月は死ぬ思いでお稽古もくらいついて…今はみんな認めてくれたみたい。

屯所を出て以来、まだ監察方との接触もない。

接触できる日が楽しみであるのと同時に、此処にいるお店の人達を裏切っている事が、なんだか心が重くなる。

まあいっか。

なんて軽く流して重くなった心を落ち着かせた。

お稽古は、厳しい先生がいて…ダメ出しダメ出しの連続だけれど、こんなの全然へっちゃら。

私は、上に上がらないといけない。

お客さんを選べるくらいに。



お稽古を終えて外に出れば、町中がオレンジ色に染まっていた。

みんな元気かな。

山南さん…大丈夫かな?

新しい幹部さんはどんな人なんだろう。

夕日はなんだかホームシックになるみたい。

日が沈みかけた、オレンジと紺色の綺麗なグラデーションの空を見上げる。

ああそうだ…英語使うなって夢主(妹)に怒られたんだった。

オレンジ色は…橙色?

ホームシックは…家に帰りたい病?

難しくてわかんないや。


ふと、背後に見知った気配を感じて、反射的に振り返った。

逆光でその気配の持ち主の表情は全然見えなかったけど…「私は元気にやってます」と、伝えるつもりで全力で微笑む。

そうすれば、少しだけ微笑みを返してくれた気がして、とっても嬉しくて仕方なかった。
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