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そうして君に落ちるまで

第7章 寵愛(ティキ)






「もう自分で食べれるから手伝わなくていいよ。」


前言撤回、やはり腕は動かなくてよかった。


「つまんねー…オレの楽しみが…」
「最近は夜以外アクマに食べさせてたじゃない。ご飯冷めちゃうし」
「じゃあ沙優が食べさせてよ。1回でいいから。」

目をつぶって口を開ければ断っても面倒と言わんばかりにため息をつき、素直にわかったよと返事をしてくる。

彼女がつれないのは相変わらずだが前のように虚ろではなくなってきているのは確かだ。

「はい」とすくったオムライスをこちらへ向けてくる。
少し甘味のあるデミグラスソースのかかったオムライスは、我ながらいい出来だ。

「美味い。今日の自信作。」
「うん。すごく美味しい。」

困ったように、けれども優しく笑う顔は、前までは本当にたまにしか見なかったのに今日は既に何度か見ている。本来の彼女はよく笑うのかもしれない。

彼女が目を覚ましたばかりの、軽やかなやりとりを思い出す。
アレがきっと、普段の、教団のエクソシストの彼女だ。

腕が軽く動くようになっただけでコレだ。
もっと回復したらもっといろんな彼女が見れるんじゃないか?


足も動いて、歩けるようになったら、オレが支えながらなら庭園を散歩したりもできるかもしれない。

激しい運動は無理でもある程度動けるようになればダンスにでも誘ってみようか。


全身が、身体が元に戻って、自由に動けるようになったら、きっと彼女は本来の彼女を取り戻して、それでー…



「ティキ?」



空のグラスを持ったまま止まっていたオレを沙優が覗き込む。

「水、足そうか?」

「…いや、大丈夫」





身体が元に戻ったら、

そうしたら、



彼女はオレの前からいなくなる。






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