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そうして君に落ちるまで

第7章 寵愛(ティキ)







まどろみの中、隣の熱が離れていくのを感じた。



隣…?隣に何かあったっけ?
鈍い思考の中、「まだ髪濡れてるじゃない。風邪ひくよ」と聴き慣れた声が再生される。

沙優…

ガバッと身体を持ちあげる。
慌てて隣を見やれば彼女は変わらずそこにいた。
はぁーと息を吐けば自分の鼓動が速まっていたことに気づく。

「なんだ…先に起きたのか……ん?」

まだ明るさに慣れない目を細めれば、彼女は自分の手をマジマジと見つめていた。

「ティキ!みて…手!」

嬉しそうな顔で、こちらに手をグーパーとゆっくり動かして見せる。

「肩も!動くようになったの!まだ早く動かせないけど…」


………こいつは俺が敵だって覚えているんだろうか。
動くようになったにしてもわざわざ伝えないで油断させておいた方がいいんじゃないか?

嬉しさが隠せないのかにこにこと自分の手を動かす沙優をボーッと眺めてしまう。まだ眠いな

沙優の前にすっと自分の手を出す。

「ん。握ってみて。」

え?と返しながらもこちらの指先を包むように優しく沙優が掴んだ。

「ソレじゃわかんない。こうでしょ」
「ちょっ」

指を開き、するりと彼女の指の間に自分の指を絡める。

「握って」


ニコリと笑えば沙優が眉間にシワを寄せる。何か言いたそうに口を開くがそういう空気になっても困ると思ったのかそこから言葉は続かなかった。代わりに、握られている指に微かに力が込められる。


「よっわ」
「しょうがないでしょ。ちゃんと動くようになったばっかなんだから。」
「はいはい。俺は二度寝するよ。」


手を離し、そのまま彼女の腰に抱きついて目を閉じる。
初めて会ったときと同じ、彼女の匂いが結構好きだった。

「ちょっと、離して…ねぇ、本とか知恵の輪とかないの?手動かしたい。」

ティキ?と降ってくる声を無視する。
肩をポンポンと叩いてくる手の心地よさは眠気を増長させた。
…彼女の腕が動くというのも思いの外悪くない。



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