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短編集【庭球】

第1章 fall in love〔跡部景吾〕


次の日から、私は生徒会室の住人になった。
図書室以上に誰も来なくて快適だ。
テニスコートに近いぶん、窓を閉めていても声援が少し聞こえてくるけれど、その代わり跡部くんの顔や表情がはっきり見えるようになったから、それはそれでいいと思っている。
夕方の一人歩きは危ないとわざわざ迎えに来てくれるから、練習が終わるまで待つようになった。
景吾、と呼ぶようにもなった。

毎日顔を合わせるようになってしばらくして、種明かしをせがんだら、意外とすんなり教えてくれた。
私が初めて図書室からテニスを見たあの日、滅多に開かない図書室の窓が開いて驚いたそうだ。
人影が見えたから気になって、次の日の練習が始まる前に図書室を覗いたら私だったから、同じクラスの向日くんに名前を聞き出したらしい。
私に会うために雨の日を待ってたんだぜ、と言われたときは、ドキドキしていたのは私だけじゃないのかもしれないと思って、嬉しくなった。


今日もまた、練習が始まる。
私は明日の授業の予習をしようと、英語の参考書を開いた。
適当に開いたのは偶然にも、あの日見つけた慣用句”fall in love”が紹介されているページで。

これが「落っこちて抜け出せないような恋」なのかもしれない。
いや、そうだといい。

テニスコートの景吾と目が合って、そんなことを思った。

fin





◎あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
夢は9年ぶりくらいに書いたので、なんとも苦労しましたが、とても楽しかったです。
少しでも、どきどきしていただけたら幸いです。

ご感想などいただけると、泣いて喜びます。
のろのろ亀更新かとは思いますが、今後もぜひよろしくお願いします。
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