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短編集【庭球】

第1章 fall in love〔跡部景吾〕


手を引かれてたどり着いたのは、生徒会室。
跡部くんに導かれるまま入ってみると、図書室よりもかなり豪華な内装で、思わずきょろきょろと全体を見渡す。

「そこ、座れよ」と促されたソファに腰掛けると、思っていたよりふかふかでバランスを崩しそうになった。
「ひゃっ」
思わず間抜けな声が出て、まだ繋がれたままだった跡部くんの手に、とっさにしがみつく。

「…意外と大胆なのな」と跡部くんは私を見下ろしながらにやりと笑った。
私は恥ずかしくなって手を離そうとしたのに、今度は跡部くんが離してくれない。
どうすればいいかわからなくなって「ごめんなさい、もう大丈夫」と言ってみるけれど、状況は相変わらずで。
こんなに近くにいたら、破裂しそうなくらいに高鳴る心臓の音が跡部くんに聞こえているんじゃないかと不安になる。
いや、もしかしたら触れている手から、もう鼓動が伝わってしまっているかもしれない。

手を取り合ったまま、跡部くんが窓の方を向いた。
私もつられて窓へ視線を動かすと、不規則に雨粒が並んだガラス越しに見えたのは。
「あ、テニスコート…」
生徒会室は二階だから、三階にある図書室からよりもずいぶん大きく見える。

「ここのがよく見えんじゃねーの?」
「うん、本当。ずいぶん近いね」
私がそう言うと、跡部くんはひざまずいて私と目線を合わせて、手に少しだけ力を込めた。

「なら、明日からはここにしろよ」

跡部くんはずるい。
断るわけがないのを知っていて、わざと言っている。

「なあ、渚」
跡部くんにかかると、私の名前がこんなにも甘美な響きになるなんて。
アイスブルーの瞳が、まっすぐ私を見つめる。
吸い込まれそうだなんて思いながら、私はかろうじて頷いた。

跡部くんは満足気に「ま、断らせるつもりなんざないがな」なんて言って笑って。
私の手の甲に唇を寄せた。
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