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短編集【庭球】

第75章 君のその手で終わらせて〔真田弦一郎〕


今どき珍しいほど硬派で義理堅い面ばかりに気を取られていたせいで、これまで付き合ってきたどの男とも違うんじゃないかという淡い期待を私は弦一郎に抱いていたけれど、その事後報告は、私が持ち合わせていた期待も自信も何もかもを粉々に打ち砕いて、「それは相談とは言わない」と言い募ることさえ忘れてしまうだけの破壊力があった。

これまでの男と違う点を強いて挙げるとすれば、「話すのが遅くなってしまったこと、本当に申し訳ない」と神妙な顔で自ら謝罪してきたことと、「別れると言われても仕方がないと思っている」とそれなりの覚悟を示してきたこと、だろうか。
ただ、弦一郎の決意に私の意思が何一つ反映されないという意味で、本質は何も違わなかった。

むしろ、違ったのは私の方だ。

ずるさを露呈されてひどく失望したのに、弦一郎への想いはまったく色褪せなくて。
それでもいいから近くにいたいのだと、夢を応援させてほしいと、半ばすがるように頼み込んだ私は、弦一郎の目にはどう映っただろう。
ぱちりと見開いたその瞳がどこまでもまっすぐだったから、しばらくして彼が発した「すまない、恩に切る」という言葉に嘘偽りはなかっただろうと思えた──のだけれど。

実のところそれは私の希望的観測でしかなくて、弦一郎は造作もない滑稽な女だと思っていたのかもしれない。
皮肉にも、気持ちを確かめようにも会えない相手について、行間を深読みしてあれこれ不安を募らせる時間だけは、充分すぎるほどにあった。

──だからだ、三日前にかかってきた電話に、別れを意識したのは。


シーズンを終えたこと、そしてもうすぐ帰国することを伝えてくれた弦一郎は、私の予定を尋ねて「その日は空けておいてくれ」と言った。
続けて「相談したいことがある」とも。

電話越しにも伝わってくる張り詰めた緊張感、いつになく真剣な声のトーン。
小さく「うん」と言いながら、ああ、やっぱり男はずるい、と思った。
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