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短編集【庭球】

第72章 エンドロールをぶっとばせI〔ジャッカル桑原〕


「ほんとっ、だ、すごい、嬉しい…」
「だろ? だから俺から言いたかったんだよ」


時折ひっく、としゃくりあげながら喜びを伝えると、ジャッカルは照れ臭そうに頰を掻いた。
好き、という一言がこんなにも嬉しいのだから、忘れたと言われることはどれだけ悲しいことだろうかと考えると、ジャッカルにそれを味わわせてしまった負い目に、また泣けた。
飽きもせず泣く私の背中を、ジャッカルは隣に座って辛抱強く撫でてくれた。


* *


「…髪乾かしてこいよ、風邪引くぜ」


どのくらい時間が経っただろうか。
ようやく嗚咽が落ち着いた頃、ジャッカルが私の髪に触れながらそう言った。
ああ、そういえばすっかり忘れてしまっていた。
「うん、そうだね」と頷いて立ち上がる。
ジャッカルが「髪があると大変なんだな」なんて独り言のように言うから、笑ってしまった。
こういう穏やかで何気ないやりとりが、嘘のない言葉が心地よくて好きだったのだと思い返す。


「ねえ、好きだよ」


洗面所へ入る一歩手前で、振り向いてそう告げる。
私も嘘偽りのない言葉で彼と向き合いたい、と思う。

驚いたのか照れたのか、そのどちらもだろうけれど、赤くなって言葉が告げなくなっているジャッカルに背を向けて、私は洗面所に滑り込んだ。


fin





◎あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。
初ジャッカル、いかがだったでしょうか。

やはりというかなんというか、彼をどうしても不憫な設定にしてしまうのはご愛嬌として、なんとか幸せにしてあげられたんじゃないかと思っています。
これまでジャッカルは正直ノーマークだったんですが、考えれば考えるほど、書けば書くほど、彼って心根からイケメンなんだなと認識を新たにさせられました…ジャッカル恐ろしい子…!

気が向いたら…というか裏を書き切る精力が私にあったら、続編も書きたいなあと思っています。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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