第69章 失楽園に咲く花は〔幸村精市〕＊

「ああ、いい目をしてるね。…なに？」


そして、私がそう思っていることを、精市は知っている。
言葉と同時に指が一本増やされて、ついでに胸の頂に歯を立てられて、快感が段違いに増す。
ひう、と獣じみた声が漏れた。
こうして追い詰めるだけ追い詰めて、私の理性を完膚なきまでにぶち壊して、決定的な一言を私に言わせて──そして、俺は何も悪くないよ、という顔をする。
それが精市のやり方。

ああ、本能が警鐘を鳴らしているのに、私はまた、踏み込もうとしている。
踏み込む先は楽園か、それとも失楽園か。


「いき、たい…」
「誰ので？ 竹田でも呼ぶ？」
「や、だ…、精市の、が、いい」


お願い、と半分泣きながら請うと、引き抜かれた指とは次元の違う熱い塊がすぐに押し当てられて、息を飲んだ。
ずぷ、という音を恥ずかしいと思う余裕も、声を出すような暇さえも与えられず、身体の中心から頭の先まで、脊髄を伝って何かが這い上がる感覚。
声にならない声は咳き込むような吐息になって、それでも受け流しきれない「何か」が、脳みそをがんがん揺さぶる。


「告白、どうするつもり？」


腰の動きを止めないまま、不意にそう言った精市の瞳がきゅうと細められた。
その視線の射殺されそうな冷たさに、ぞくり、また背中が震える。
「俺と別れたいの？」と重ねられた問いに必死に首を横に振ると、精市は「ふうん…そう」ともったいぶるように言って、私を一際強く突き上げた。


「ねえ、締めすぎ。乱暴にされる方がよさそうだよね、ほんと物好きだなあ」


何もかもが爆ぜる瞬間、それを見越していたようなタイミングで、キスに口を塞がれる。
呼吸も悲鳴ももろとも飲み込んだ精市は、律動をやめるどころかその動きを早めた。
一度頂へ登りつめた身体は他人のものになったように制御ができないのに、感覚だけが二倍にも三倍にも上塗りされていて。
いつもなら「だめ、待って」と拒否していたところなのだろうけれど。
今、キスと一緒に「きもちいい、もっと」と強請っているのはきっと、私が理性の先に踏み込んでしまったから、なのだろう。