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短編集【庭球】

第66章 Flavor of love〔幸村精市〕


長かったような、短かったような。
いや、長かったし、短かったのだ。
十五年という歳月は間違いなく長いものだったけれど、一方で精市と一緒にいる時間はいつもあっという間に過ぎるから。


出逢った頃から変わらず、いや当時よりずっとずっと、精市は魅力的だ。
そんな精市に魅せられたのは当然私一人だけではなくて、私よりずっとずっと素敵な人からたくさんのお呼びの声がかかってきたのを、私は知っているけれど。
当の本人は、それらをとびきりの微笑みで、ときにひどく冷たい表情で、いつもさらりと受け流していた。

それはきっと、明日結婚式を挙げても同じなのだと思う。
精市が言い寄られるのも、私がまるで気にしていないようなふりをしながらやきもきと見守るのも、そして精市が誘いを断るのも、すべて。
精市はそういう人だし、私はそれを信じている。




「寝る前に明日の持ち物だけ二人で確認しておこうか。忘れ物があったらいけないし」


「朝は何かとばたつくんだろ?」とつけ加えた精市が、悪戯っぽく笑う。

精市は決して朝に強くないくせに、私と一緒に迎える朝を一人で寝過ごすことをひどく嫌がる。
曰く「目が覚めたとき、抱いて眠ったはずの私がいなくなっていると心臓に悪い」のだそうだ。
明日の早起きを少々根に持っているらしい。
人生に一度きりの大イベントなのだから大目に見てほしいのだけれど。
そんなことを思いつつ「じゃあリストの読み上げをお願い」とメモ用紙を手渡した。


「じゃあいくよ。まずは結婚指輪…って、これ忘れたら確かに困るなあ」
「大丈夫、あるよ。指輪の交換できなくなっちゃうもんね」
「次、真田へのお礼。真田のやつ、どんなスピーチするつもりだろうね?」
「オッケー、あるよ。真田くんのことだから、今ごろ部屋にこもって練習してくれてるんじゃない?」
「ははは、ありうる」
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