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短編集【庭球】

第65章 キスとデータは使いよう〔柳蓮二〕


口が堅いのもありがたかった。
誰にも言わないで、という頼みを柳は律儀に守ってくれたようで、私は友達から揶揄われるようなこともなく、平穏無事に日々を過ごせた。
どうやら柳というのは、信用するに足りる人物らしい。
そう思うまでに、そう時間はかからなかった。

ときには耳の痛いことも言われた。
「視界に入って気に入られようという努力が足りないと思うが」という言葉は、的確すぎて悔しいと思うほどだった。
柳の指摘を参考に、永井くんが偶然私たちのクラスの前を通るのをひたすら待っていただけだったのを改めて、彼や彼のクラスの友達に辞書を借りに行くようにしたり、偶然を装って駅までの帰り道を一緒に歩いたりした。
顔を合わせると必然的に話す機会が増えて、確かに以前よりも距離が縮まった気がした。

兎にも角にも、柳はこの上ない相談相手であり、究極のアドバイザーだった。



「ねえ、柳」
「どうした?」
「私が今告白したとしてさ、成功する確率ってどのくらいだと思う?」


そう尋ねたのは、一週間前のことだ。
私の問いかけに少し考え込んだアドバイザー、もとい柳は「今の確率は半々といったところだろうな」と言った。


「告白するつもりなのか?」
「それも視野に、ってとこ?」
「残念ながら確率が百パーセントになることはないが、今よりもう少しなら上げることはできると思うぞ」


柳は少し驚いたような表情でそう言って、それから「個人的にもそれを薦める」と忠告してくれた。
「うーん、そうだなあ」なんて生返事を繰り返す私に、柳は「どうしてもと言うなら俺は止めないが」と観念したように言った。
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