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短編集【庭球】

第65章 キスとデータは使いよう〔柳蓮二〕


今年初めて同じクラスになった柳とは、それまでほとんど話したことがなかった。
データマンと名高い柳のことはもちろん認識していたけれど、たかだか一クラスメイトでしかない私のデータまで取っているなんて思いもしなかったし、私なんかのささやかな恋愛を知ることが柳に何の得になるのかもわからなかった。
天才には変わった人が多いというのは本当らしい、そんなことを思いながら曖昧に返事をしたら、その場はなんとなく流れた。

顔に似合わず…かどうかは置いておいて、意外と意地の悪い柳は、それ以来ことあるごとに永井くんの件で私をからかってくるようになった。
他の人にばれないようにしてくれるのはせめてもの救いだったけれど、だんだんとその仕打ちに我慢ならなくなってきた私は、あるとき「そんなに進捗が気になるなら協力してよ」と投げやりに言った。
すると柳は「いいだろう」と薄く笑って、「この柳蓮二、データに恥じない働きをすると誓おう」とまで言ってのけたのだ。
半分冗談だったんだけどな、と予期せぬ展開に戸惑いつつ、持ちかけたのは他でもない私で。
思いのほか乗り気な柳を拒むこともできずに、私はそのまま「よ、よろしく…」と頭を下げた。


それからというもの、私の恋は柳のデータ頼みになった。

柳は約束どおり、膨大な情報量に基づいたアドバイスを惜しげもなく提供してくれた。
知りたいと思いつつずっと確かめられないままだった、永井くんの彼女の有無は、柳がノートを繰ればすぐに出てきて、そのあまりのあっさりさに拍子抜けした。

永井くんは髪の長い子がタイプらしいとか、この間後輩の女の子に告白されたのに断ったらしいなんていう噂レベルの話から、「一か月後にマフィンを焼く調理実習があるらしいぞ、永井に渡すつもりならラッピングも含めて練習しておくといい」とか「来週はサッカー部が練習試合をするから、差し入れでもしたらどうだ」といった、ありがたすぎる指南まで。

どうすればそんなに情報を得られるのか不思議なくらい、柳はなんでも知っていたし、それらはすべて正しかった。
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