第42章 ほんの些細な日常も
日代君は私の手を握って、
「目ぇ瞑れ」
と囁く。その言葉にどういう意味が含まれているかわかって、私は目をぎゅっと瞑り、少し肩に力が入る。
日代君が身を乗り出す気配を感じてからしばらくして、唇がそっと優しく触れあう感触がした。
ほんの少ししてから唇から温もりが離れる。
私がそっと目を開けると、日代君の真っ赤な顔が目に入ってきた。
「う、上手く出来たかはわかんねぇ。でも、これから先もどんなことでも優しくするから。だから俺を怖がったりはしないで欲しい。」
「うん。怖くないよ。すごく緊張するけど、嫌じゃない。むしろうれしいから…。」
その先は恥ずかしくて言えない。言葉の代わりにぎゅっと手を握る強さを強めた。
「なら良かった。それじゃあ不意打ちもあるかもしれねぇから、覚悟しておけよ。」
「えっ。」
そう言う彼の目は珍しくいたずらっ子のような目で、でも真剣に話しているのだとわかった。
「うん、覚悟しておく。」
私も負けじと笑って見せる。
つられて笑う日代君の顔が、あの大好きな笑顔で、たまらなくなる。
どうしよう、好きが溢れ出しそうだ。
とめどなく溢れて、止まらなくなりそうだ。
こんなに好きな人に出会えるなんて、思ってもみなかったな。
シンデレラも最後は大好きな王子と結ばれてハッピーエンドを迎える。
私だって。こんなに大好きな人と恋人になれた。
誰だって色んなストーリーを持っていて、どんなエンドを迎えるかは自分―――そう、主人公自身で決まる。
私はこれがハッピーエンドだと思う。
でももしかすると、これから先、色んな障害ができるかもしれない。でも、自分が大切に思える彼と一緒にどこまでも乗り越えていきたい。
船乗りのように、どんな人生の嵐にも共に勇気を出して立ち向かいたい。
これから先もずっと一緒にいられますように
そう願いながら私は彼の赤い髪を撫でた。