第12章 街角の出会い
『この国でアリババといえば、怪傑アリババのことです』
ホテルの従業員のお姉さんが言っていた言葉を思い出していた。
不安が現実になるとは、このことだ。
昨夜の『霧の団』との一件から、夜が明けて昼を過ぎた今も、アラジンはずっとふさぎ込んでいた。
モルジアナによると、昨夜は盗賊団にいた『アリババくん』に会えたらしいが、理由も話すことなく、一方的に「もう一緒には行けなくなった」と言われてしまったらしい。
アラジンは、バルバッドの街に来るまでずっとアリババに会えるのを楽しみにしていた。
だから彼に理由もなく拒絶されたことが、よほどショックだったのだと思う。
今朝からずっと何も口にしていないし、モルジアナと一緒に食事を促しても「食欲がない」の一点張りだった。
気分が落ちこみ、食欲がわかないことはわかるけれど、空腹は気力までどんどん奪ってしまう。このままじゃ元気がなくなる一方だ。
アラジンに元気を出してもらうためにも、せめて一口だけでも、何か口にして欲しかった。
泊まっている場所が、高級ホテルだということもあって、食事は頼めばいくらでも希望通りに作って持ってきてくれた。
けれども、どれも豪華な見た目のものばかりで、味は美味しいのだが、庶民の自分たちにとっては落ち着かないところがあった。
きっと、街の商店で売られているような普通の食事の方が、アラジンも食べやすいんじゃないだろうか。
「モルジアナ、私ちょっと町まで出掛けてくるよ。露店で何か美味しそうなおやつでも買ってこようと思って。その方がアラジンも、少しは食べる気がするんじゃないかと思うの」
鏡を見て、頭にターバンを巻きながらハイリアが言った。
「はい……、でも、なんでわざわざ男装しているのですか? ハイリアさんは、元々着ている物も男性ものですし、そうやって髪まで隠してしまうと、本当に男の方みたいです」
モルジアナが不思議そうな顔をしているのが、鏡越しに見えて、ハイリアは苦笑いを浮かべた。
「ああ、これね。キャラバンでは、あんまり一人で町に出るってことがなかったし、モルジアナは見たことがなかったよね。もう、癖みたいなもんなんだ」
改めて、鏡をまじまじと見ると、本当に少年みたいに見えるから笑ってしまう。
髪をターバンの中に入れるだけで、こうも男っぽくなるから不思議だ。