第28章 緋色の夢 〔ⅩⅢ〕
「あ、ジュダルくんに、ハイリアちゃん~! ほんとに戻ってきてる~! 」
突然、響いてきた朗らかな声に動揺した。
パタパタと走るその足音が、後ろから近づいてくる。
「見かけたって聞いて捜したよ~! そーんな隅っこで二人とも何してんの~? 」
やってきた紅覇に何となくうろたえて、答えられずに黙っていた。
背中の方で止まったその声が、だんまりを確かめるように深く息をついて、ポリポリと頭をかくような音がした。
「あー、ひどいなぁシカト~? どうしたの~? 何かどんよりしちゃってさ。まーいいけどぉ……。
久しぶりだよねぇ、ハイリアちゃん! 元気だった~? 」
「ハイリアちゃん……? 『ハイリア』……、それ、マギも言ってた。それって、あたしのことなの……? 」
「え……? 」
不思議そうに言ったそいつの声で、紅覇の声が一度途絶えた。
すぐにこちらを見るような視線を感じたが、それも答えないでいるうちに逸らされたようだった。
「どうしたのぉ~? 当たり前じゃん、君のことだよ、ハイリアちゃん」
「あたしのこと……、『ハイリア』が……? よくわからない……。あなた、だれなの? 」
怪訝そうなその声が、またわずかな静けさを作り出す。
「あ~、えっと……、僕は、紅覇。……覚えてない? 」
「こうは……? 」
「そうだよ、ジュダルくんとも仲良しなんだぁ……、君ともだけどぉ……」
「マギと……。じゃあ、どうしたらマギが笑ってくれるか、コウハはわかる?
あたし、マギを怒らせちゃったの。せっかくマギを見つけたのに……、あたしのお話きいてくれないの……」
「…………そっかぁ~、それは困ったねぇ~。僕もちょっと、ジュダルくんとお話したくてここに来たんだけどぉ~」
そう言って、紅覇が急に俺の肩をグッと強く掴んできてハッとする。
「ねぇ、ジュダルくん。僕と少しお出かけしない~? 」
「はぁ~!? なんでおまえと! だいたい、今そういう気分じゃ……! 」
ふざけた発言に声を張り上げて振り返ったとたん、作られた微笑とは真逆に、全く笑っていない紅覇の視線とぶつかり合って固まった。
掴まれた肩がギリギリと締め付けられる。