第10章 食事会での迷い
必死になって、あの暗がりから逃げてきた。もう、戻りたくない、見たくないと叫ぶ心がある。
関わることはない、今まで何のために自分を押し殺して行動してきたのだ。
お前には別の方法で未来を掴む方法がある。ここでリスクを冒してまで行動するべきではないと、その声が言う。
一方で、仲間と共に戦い、自ら望む未来を掴めと叫ぶ心がある。
せっかくのチャンスではないか、自ら掴み取る勇気を今持つべきだ。
お前を受け入れてくれた友達が待っているではないか、彼らの思いを踏みにじる気なのかと、その声が攻めたてる。
二つの声に、思いが定まらない。
モルジアナとアラジンの強い瞳がこちらを見据え、シンドバッドが返答を待っていた。
威圧にも似た鋭い眼差しは、早くしろと急かされているようで、心は決まっていないのに、気ばかりが焦って落ち着かない。
決めなければいけない。決めなければいけないんだ。
望まれているのは、決断で、行動を共にする合意だ。
揺れ乱れる心がはっきりとしないまま、大きな運命の流れが、ハイリアの足下をすくおうと手を伸ばした。
「やりましょう、ハイリアさん!」
モルジアナが希望に満ちた瞳で、ハイリアを見つめた。
真摯な彼女の表情をみて、裏切ることなど出来ないと、思ってしまった。
「うん……。そうだね」
笑顔で心を隠し、同意の言葉を口にしていた。
「やるよ。盗賊退治!!」
アラジンが、シンと握手をしているのを見つめながら、もう後戻り出来なくなったのだと、ハイリアは自覚した。
自分だけが、一人、別の舞台へ立たされているようだった。
大切な友達であるモルジアナの頼みだった。
優しいアラジンの頼みだった。
シンドバッド王にまで頼まれた。
彼らの信頼を踏みにじることが出来ないと思ってしまった。
けれど、覚悟など何もできていない。
決断してしまったことの恐ろしさに、今更、後悔もしている。
絶望的な選択をしたかもしれない。
皆が『盗賊退治』について話はじめた中、ハイリアは一人、立ちすくんでいた。