第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
「ハイリアって、いうんだったよな……。君も何かに囚われているんだろう? 君も僕と同じだ……。でも、君はまだ……、完全には堕ちていない……。まだ、間に合う……。
今ならわかるんだ。君が抱える闇も、光も……。君は確かに、どちらにも傾きやすい存在だけれど、決して闇に堕ちていい存在じゃない……。
その力を、ちゃんと……、君が望む人の、元に……」
まるで最後の言葉であるかのように少年が言い、その瞼が重そうに閉じられていく。
「いやだ、待って……! 私まだ、上手く笑えてないじゃないっ……。ちゃんと、笑ってみせる、からっ……! 」
今にも命の火が消えそうな少年の身体を、ハイリアは泣きじゃくりながら抱き寄せた。
困った様子で少年の瞼が開かれる。
「ははっ、ぜんぜん、笑えてないじゃないか……。温かいな……、君の側も、あの人みたいに、とても居心地がいい……。君の側なら、闇の中でも、よく眠れそうな気がするよ……」
「だめだよ……、眠っちゃ、だめだよっ……! 」
「無理言うなあ……、君は……。なあ、ハイリア……、約束して……くれないかい……? 君は、闇に堕ちないって……」
「約束するっ……、やくそく、するから……! 」
涙をこぼすハイリアを見て、少年が眠たそうな表情で微笑んだ。
「約束だぞ……。君は……、ぼくの、よう……に、は……」
全てを言い切る前に、少年の瞼が重く閉じられた。
穏やかな表情をした彼の身体から力が失われ、黒い石のようなその身体に亀裂が入り、ボロボロと灰のように崩れていく。
「や……、いや……、どうして……っ!? 」
小さくなっていく少年の身体を繋ぎ止めるようにハイリアが抱きしめたとたん、黒の破片が腕からこぼれ落ち、空を切るように腕が交差した。
細かな砂塵となった少年の身体が、きらきらと舞う。
腕の中から逃げるように飛んで行った黒ルフたちと共に、その漆黒の中へと溶け込んでいった黒いきらめきが見えて、ハイリアは声を震わせて泣き叫んだ。
頬を伝う雫が地面に落ちて、黒い砂塵に消えていく。
雨粒のようなその水滴に混じって、氷のような光の粒が、ハイリアの身体から溢れ出てきていた。