第24章 緋色の夢 〔Ⅸ〕
夜が明けていく、この時間帯は嫌いじゃない。
冷たさを感じる澄んだ空気は重い身体を目覚めさせ、ほどよい緊張感を与えてくれるし、少しずつ朝の光を迎え入れて紫色の空がしらやんでいく様は、優しくて安堵する。
だからこそ、それとは真逆の暗闇に包まれていると、自分が行おうとしていることが、ひどく間違ったことのように思えて複雑な気分になった。
正体を隠すため、従者の衣装に身を包んでいるからだろうか。
人目を避けながら陰る影の中を歩いて、ここまでやってきたからかもしれない。
胸の奥にあるわだかまりは消えてくれないし、気分はいつまでも重いままだ。
きっとこの先のことを知ったって、深くよどんでしまったこの気持ちが晴れることはないのだろうけれど……。
── ソレデモ、知ラナケレバ……。確メナケレバ……。
憑りつかれていると思うほどに、溺れてしまっている何かの感情に囚われながら、ハイリアは濃紺に浮かぶ白い扉に手を触れた。
── この組織の秘密を暴くと、もう決めたんだから!
決意を固め、勢いよく扉に向けてマゴイを放つと、白の扉は力をかけずとも容易に開いていった。
ギシギシと軋む音と共に、影の中に浮かぶ厳かな白の広間が見えたとたん、心が歓喜したように震えたのはどうしてだろう。
青のランプのかがり火に照らされているとはいえ、その様は闇をまとうようでとても不気味なのに。
昨日とは違う、夜の気配に包まれた広間に足を踏み入れると、すぐに扉が閉まる音が響きわたった。
視界は急激に暗くなり、肌に溶けるような深い影に身体が覆われる。
「本当に、私のマゴイだけで開くのね……」
目を慣らすように闇に浮かぶ青いかがり火を見つめながら、ハイリアは呟いた。
「ねぇ、アイム……、なんで私のマゴイだけでこの扉を通れるの? 昨日からずっと不思議だった。黒ルフを持たない私がこの扉を通れることを、あなたは知っているようだったけれど……、どうして? 」
『…………』
昨日から感じていた疑問をぶつけると、思った通りアイムは黙り込んだ。