第22章 緋色の夢 〔Ⅶ〕
一瞬、驚いた顔をしたジュダルが見えたけれど、拒まれはしなかった。
高鳴る鼓動と胸に起こる切ない感情に、彼を好きなのだと自覚する。
ぎゅっと抱きしめて目を閉じていると、恥ずかしいのに温かくて、心地良くなっていった。
寂しい時も不安な時も、側にいてくれたのはあなただった。
気まぐれだったのだとしても、それが嬉しくて、いつも気持ちが和らいだ。
── だから、今度は私が側にいたい。身勝手な思いだとしても……。
胸の奥ではズキズキと黒い感情が疼いている。これはもうおさまらない。
── でも、あなたを思うこの気持ちだけは、嘘をつきたくなくて……。
熱い感情に流されて、寂しげな彼を慰めているのか、言い訳をしているのか、よくわからなくなりながらジュダルの温もりを感じていた。
大きな彼の身体に埋もれていると、急に勢いよく身体が反転して、ハイリアは目を見開いた。
「おまえ、ここがどこだかわかってやってるんだよな? 」
いつの間にか、身体の上に覆いかぶさっているジュダルの大きさに、恐さを感じたのはきっと間違いじゃない。
上から注がれる赤い眼差しに捕らわれそうだった。
「わかってる……、つもり、だったけど……」
やっぱり少し恐かった。
こんな場所で感情に流されるままに行動していたら、どうなるかくらいは、わかっていたはずなのに。
「わかってるんだな? わかってねーなら、はじめの時点で逃げなかったおまえが悪いんだぜ? 泣いたって止められねーからな」
ジュダルに言われて表情がこわばるのを感じたが、今更逃げ出したい衝動に駆られても、すでに身体は押さえられていて、逃げ道は塞がれていた。
「そんなに硬くなるな、ハイリア。おまえは特別だからよぉ、少しはわきまえてやるよ」
「……少しだけなの? 」
思わず聞いたとたん、恐く思えたジュダルが柔らかく笑った。
「抑えがきかねぇ時は、どうしようもねーだろ? 」
彼の笑顔に少しだけ安心して、わずかに笑みを浮かべると、ジュダルが口づけを交わしてきた。
先程よりも深いキスは、あっという間に冷静な思考を奪っていく。
溺れるような熱い感触に、抑えがきかなくなっているのは、彼なのか、自分なのか、よくわからなくなる。
降りやまない雨の中、ただ感情に流されるまま、互いに温もりを重ねて確かめ合っていた。
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