第1章 的場さんと私(1)
「ところで、また式集めですか?的場さんお一人とは珍しい」
「いえ、今日は貴方に用があったので探しに来たんですよ。これはついでです」
言いながら、的場は袖口に入れていた小さな壺をに見せる。
「貴方が私の式になって頂ければ、わざわざ出歩く必要もなくなるのですが」
ねぇ?と付け足して、的場は未だに座ったままのヒロの顔を両手でそっと包み込む。
ひんやりとした手が、寝起きの体に心地好かった。
「的場さんの手・・・気持ちいいですね。ずっとこうしてて欲しい」
「そうやって・・・誘っているんですか?貴方は・・・」
「フフ、まさか」
は妖だ。
それも、元々は人間である。
他の妖によると、人間だった時からは美しかったそうだ。
男も女も関係なく、誰からも慕われていた。
それが何故妖になったのかは知らないが、に聞いても「内緒です」の一言で返された。
「では、行きましょうか」
「はい」
どちらからともなく差し出した手を取って、的場とは森の中へ歩み出した。