第1章 的場さんと私(1)
10月中旬。
長く続いていた暑さもようやく治まり、過ごしやすくなってきたが、時折酷く気温が下がる時がある。
今日はまさにそんな日だった。
「おや。こんなところで寝ていては、風邪を引きますよ」
森の奥深く、滅多に人は立ち入らないであろうところにある川のほとり。
そんな場所で寝ている一人の青年に、右目に眼帯を付けた青年が声をかけた。
「ん・・・まと、ばさん・・・」
声をかけられた青年はピクリと反応し、眠たそうに目を擦りながらゆっくりと起き上がる。
そして声の主ー的場静司ーの方へ向き直り、ニッコリと笑いながら言った。
「風邪なんて引きませんよ。妖なんですから」
「どうだか。は変に自意識過剰なところがありますからねぇ」
クスクスと笑う的場。
ただそれだけなのに、絵になるなぁとは思った。
普段からそうやって自然に笑えばいいのに、とも思ったが、それを言ってしまうと後が怖い気がしたので胸にしまっておく。