第2章 プロローグ
「失礼します」
ノックとほぼ同時にアキが中へ入る。返事も待たないし、これじゃノックの意味がないと思う。
「お帰り」
「無事、終わりました」
手短に報告するアキの後ろから、所長を見る。見た目は40手前くらいかな。年齢だけ見ると、幹部と親子ほど離れている。
いつ報告に来ても、機嫌よくデスクについているこの人は、一体いつ休んでいるんだろう。
組織のトップで、あのアキですら、敬語だ。
「少し時間がかかったんじゃないか?」
「はい…途中で一度見失いまして」
アキの言葉に、所長がへえ、珍しいと面白そうに言う。と、コンコンとドアをノックする音。
「失礼します」
入ってきたのは、ハル。幹部の一人で、サラリとした黒髪に、スタイルのいい長身。穏やかな笑みをたたえたその顔は、部下や敵対組織にすらファンがいるほどの美青年だ。
「あれ、任務終わり?」
「おー」
アキのそっけない返事も意に介さず、私の方を見てお疲れさま、と笑顔を向けてくれる。アキも、たまにはでいいから笑顔を向けてくれればいいのに。というか、ハルの爪の垢を煎じて飲めばいいのに。
「で、何で見失ったんだ?」
「こいつがふざけてて」
「なっ…!」
アキがしれっと私のせいにしようとするから、つい声が上がる。責任を部下に押し付ける上司、最悪です。