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~短歌~

第2章 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそみえね 香やは隠るる




「キツネ?」
「あぁ。」
「襲われたのね。鹿…では無いと思うけど。」

おふくろは血まみれの狐に気後れすることなく、ぬるめに湿らせたタオルでせっせと狐の体を拭く。
親父と獣医も到着して、後は獣医の腕にゆだねる。

「酷い怪我だ。何かに噛み裂かれたな。」
「熊か?」
「だろうね。冬眠明けで気が立っているとはいえ、獣を襲うには時期が早い。」
「まぁ、獣の事は獣たちにしか解らないだろう。それで、治りそうですか?」
「幸い腱や筋は無事のようだ。皮膚をばっさり。数日も安静にすれば野に帰れる。」

確かに、腹を空かせた熊がここまで姿を見せる事は時折ある。
だが、すばしこい狐が熊に襲われるなんてあまり聞かないし、獣医が言ったようにそもそも冬眠明けの熊はすぐに肉が食える訳じゃない。
森のやつらは無駄な殺生はしない。

「じゃぁ、シカマル。後はお前がやれ。」
「は?」
「オレは明日から任務でな。お前はしばらく休みだろ?」
「おい、ウチは獣医じゃねぇんだぞ。」

じゃぁ、そういう事で。と勝手に話を進める獣医のジジイ。
夜も遅いからさっさと帰って眠りたいのが丸解りだ。
早寝早起きの年寄りらしい。
俺の抵抗も虚しく、こいつの世話は俺がする事に決まってしまった。
獣の事を知らない訳では無かったが、狐もイヌ科に属するのなら明日にでも、犬塚の家に置いてくるのもありだと自分に言い聞かせ、夜中起きた時様子を見てやるのに自分の部屋へと金網の檻を運び入れた。
檻に入れられた黒い狐は、麻酔のおかげでよく眠っている。
この分なら朝まで起きそうもない。

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