第5章 物理の先生
アヤセは中庭のベンチに腰をおろしていた。
熱を冷ますためだった。
(レオ先生…
なんであんなことしたんだろう…
ううん…レオ先生だけじゃない…
ここの先生って
みんなあんな感じなのかな…)
うまく飲み込めない現実に
大きなため息をついた。
「はぁぁー…」
そのとき、背の高い植物に隠れて
よく見えない隣のベンチから
ブツブツと何やら呟く声が聞こえてきた。
(誰だろう…)
アヤセが腰を浮かせて覗き込むと
そこにはメガネをかけた長身の男性が
なんだか気難しそうな本を読んでいた。
(…物理学の本?)
男性はアヤセに気づくと
「貴方は…?」と訪ねる。
「あ、今日からお世話になるアヤセです…。」
アヤセは、
またこの人も何かしてくるのかな…
と思うと理解しがたいことが続く
現実に飽きれ気味に
小さなため息をついた。
「ああ、貴女が。
私は物理のアルバートです。
以後よろしくお願いします。」
アルバートはそれだけ言うと
再び本に目を落とし、
ブツブツとまた呟き始めた。
(あれ?何にもないのかな?
…って、
まぁそれが普通のことなんだから、
よかったんだけど…)
アヤセは拍子抜けした様子で再びベンチに腰を降ろした。
春の風はさわさわと
アヤセの頬と髪をなでてゆく。
(気持ちいい…)
しかしアヤセはハッと気づく。
腕時計を見ると
体育館に来るよう言われた
時間が迫っていた。
(いけない…!行かなきゃ!!)
アヤセはバッと立ち上がると
アルバートが座るベンチを通り越した
先に見えている体育館へと
慌てて走り出した。
しかし同時にアルバートが
「わからないっっっ」
と言って立ち上がったために
二人は思いきりぶつかり、
その場に倒れ込んでしまった。
「いたた…」
アヤセが目を開けると、
なんとアルバートがアヤセの上に
覆い被さるようにして倒れ込んでいた。
「えっ…!」