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[名探偵コナン]マティーニにお砂糖を

第37章 デジャビュ?/ジン,ベルモット


前を通りかかった芸能人の名前がどうしても出てこなくて思い出そうと必死になっていたときだった。
扉が開く音とともに客達が騒ついて皆の視線が一様に入口へ向く。
一瞬工藤先生がいらっしゃったのかと思ったがそうではないらしい。
掛け寄った記者の間から見えたのは美しいブロンド。
「あの女狐が。」そう背後のジンが呟いたおかげで、あのブロンドはベルモットなのだと分かった。
何度か焚かれるフラッシュと迷惑そうなベルモットの声が聞こえた直後、会場の照明が落とされた。
会場は一瞬で水を打ったように静まり返っる。

「皆様、本日は工藤優作の受賞記念パーティーにお越しいただきまして誠にありがとうございます!」
スポットライトに照らされて登壇したのはどこか見覚えのある巻き髪の女性だ。

「あの人誰だっけ?どっかで見たことあるような…」
「藤峰有希子ですね。17年前に芸能界は引退してますから、さくらさんは知らなくて当然でしょう。」
思わず口からこぼれた独り言を聞かれていたらしい。いつからいたのか、安室さんが私の隣に立っていた。
周りの客の目が壇上に集中する中、こそりと安室さんの耳に口を寄せる。
「安室さんだって、私とそんなに歳変わらないじゃないですか。」
そこは気にしないでくださいよ、と笑いながら、安室さんは私にも耳を貸すようにジェスチャーをした。

「ジンから伝言です。”少し抜けるがお前はここから動くな”だそうです。」
「抜ける?」
「組織の仕事だそうですよ。僕もそろそろ行かないと。じゃあ、この会場からは絶対に出ないで下さいよ!」
そう言い残すと安室さんは人並みを掻き分けて遠ざかって行く。
「え、ちょっと、」
待って、と伸ばした手は虚しく空を切った。
壇上ではちょうど藤峰有希子の挨拶が終わったところ。
拍手を送る客達の間を縫うように安室さんの後を追う。何人かに肩がぶつかって嫌な顔をされたが構ってなどいられなかった。
しかしこの会場の薄暗さに同じ格好をしたスタッフの多いこと。すぐに安室さんの姿を見失ってしまった。
気付けば立っているのはちょうど扉の前。
もうすぐ始まりますよ、と言うドアマンの声も無視して私はロビーに飛び出した。


今にして思うとなぜ私は安室さんの言うことを聞かなかったのか、なぜ素直に会場で待っていなかったのかが悔やまれてならない。


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