第36章 ショッピング/灰原
(ショッピング)
「あれ、哀ちゃん?」
杯戸デパートのセールで見知った後ろ姿を見かけて思わず声を掛けた。
人でごった返すタイムセールの中見つけることができたのは、その場であまりに彼女が浮いていたからだ。
若い女性達が群がるラックから少し離れたところでセール品でもない商品を手に取る彼女。
「あら、さくらさん。あなたも買い物?」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。
「そう。セールやってるって聞いたから寄ってみちゃった。…ってことは哀ちゃんも?」
「私は博士につきあってるだけよ。」
この階は婦人服の店舗ばかり。哀ちゃんが着れるサイズの服は置いていないだろう。
博士と一緒にいても暇だから色々見て回ってたの、と言う哀ちゃんと並んで歩く。
「ちょっと待って、このお店見てもいい?」
先に足を止めたのは哀ちゃんの方で。私が頷くと嬉しそうに店内に入っていった。
「あなたと一緒だと気兼ねなく色々見れていいわ。」
新作、と札のかかったパンプスを手に取って哀ちゃんは笑った。
「私が1人でお店に入ると、大抵不審そうな顔されるのよね。この間なんて迷子扱いされたし。」
もううんざりよ、と哀ちゃんは肩を竦めてみせた。