第2章 Last smile【月島蛍】
『みなみっ!!』
叫んだ自分の声で目を覚ます。呼び止めようと伸ばした手の先には、彼女の後ろ姿ではなく見慣れない天井があった。慌てて飛び起きると、何故か左手には山口、右手には日向が、それぞれの布団の上で寝息を立てている。
心臓がバクバクと脈打っている。呼吸を整え、ようやく夢と現実との境目がハッキリしてきた。
ーーーああ、そうか。
昨日から合宿が始まったんだった。
こんな夢を見たのは、昨日の夜、西谷さんがくだらない話題をふっかけてきたからだ。好きな女子のタイプがどうだとか言って。広げられた雑誌に載っていた女の子が、たまたま彼女に少し似ていたからだ。
触れた唇の感触が、まだリアルに残っている。別れ際の彼女の笑顔も、その声も。
その時、隣で寝ていた山口がうーんと唸って身をよじった。
「あれ…ツッキー…どーしたの…?」
「あぁ、ごめん…変な夢見て目が覚めた」
「そーじゃなくて…。泣いてるの?」
「え…?」
思わず目元に触れる。湿っぽい感触。
僕はとっさに誤魔化した。
「…別に。あくびしただけ」
「そっか…」
「…まだ早いし、もう少し寝る」
「うん」
僕はもう一度、布団に横になった。
…思えば、彼女の夢を見るのは久しぶりだ。当時は、僕に恨みでもあるのかと思うほど、毎晩夢に出てきたくせに。
彼女の夢は徐々に見なくなった。特別それが淋しいとは感じなかったし、そんなもんだと言い聞かせた。みなみだって、海の向こうで、こうしてだんだん僕のことを忘れていくんだ。
誰かに期待することはやめたはずだった。
なのに、もしかしたら君は僕の事を
好きでいてくれてるんじゃないかと
どこかでそう願っていた。
自惚れだと突き放されるのが怖くて
僕は結局
最後まで向き合う事ができなかったんだ。
ただ……
ホントはあの時、君は一人になってから泣いていたんじゃないのか?