第2章 Last smile【月島蛍】
『蛍っ、おっそーい!!』
早朝6時半。
玄関のドアを開けると、門の前でずっと待っていたみなみが、不機嫌そうに振り返った。もう何十回、何百回と聞かされたそのセリフに、僕もお決まりの言葉を返す。
「だったら、わざわざ待ってないで先に行ったらいいでしょ」
「だって、一人で朝練行くのつまんないんだもん。いいでしょ?どーせダンス部もバレー部も同じ時間帯なんだし!」
「山口でも誘えばいいじゃん」
「忠の家は学校と逆方向だからダメ〜」
言いながら、べー、と舌を出す。
その後で決まってクシャッと笑顔になりこう言うんだ。
「さ、行こっ!遅れるよっ!」
みなみは僕の家の隣に住む幼馴染。中学でダンス部に入ったみなみは、毎日毎日、こうして飽きもせず僕を朝練に誘う。
夏に向けて徐々に強さを増す朝日が、寝ぼけた目に痛い。僕は思いきりしかめ面を作って、先に歩き出した彼女をしぶしぶ追った。
小学校の頃から続けているダンスのせいなのか、みなみの手足はスラリと長い。高い位置で結んだポニーテールを元気に揺らしながら、背筋をしゃんと伸ばし、まるで草原を生きる動物のようにしなやかに歩く。
朝は一人で音楽でも聴きながらゆっくり行きたいと思いながらも、毎朝こうして並んで歩くことが不思議と心地良くもあった。