第5章 【赤き弓兵の記憶】 身勝手な願い
――それは、私が聞き間違えるはずのない声だった。
「アーチャー」
呼ばれて振り返ると、そこには、私が思い描いたとおりの人がいる。
やはり、来るのか。と、そう思う。
内心、苦虫を噛み潰したような気持ちを味わいながら、それを臆面にも出さずに、私は白々しく口を開いた。
「何かね、お嬢さん? 私は急いでいるのだがね」
言外に「邪魔だ」と、そう聞こえるような、嫌味に満ちた物言いで、彼女を突き放す。
これ以上、私を引き止めないでほしい。でなければ、オレは、私は、彼女を求めてしまう。「私」が彼女の身を滅ぼすと――それを、知っていながら。
けれど、それでも、彼女は「昔」と変わらない――どこか歳不相応な笑みを浮かべた。
「バーサーカーと戦うんだよね? 私も手伝うよ」
記憶の混乱が治まってからというもの、私はそれまでと一変して、彼女を突き放してきたはずだった。それだというのに、どうして、何も知らないはずの彼女は、こうまでして「私」と共に在ろうとするのか。
「オレ」には解せなかった。今の、「私」にさえも。