第6章 「過去の未来」 いつか、きっと、また
「――■?」
名前を呼ばれ、ふと、目を開ければ、記憶の中よりも、ずっと成長した幼馴染みの――士郎の顔――その顔は、本当に、今にも泣きだしそうなのに、どこか、泣くまいと無理をしているようにも見えた。
私は、士郎のぬれた瞳を見つめ返しながら、その頬に手を添える。
「士郎……正義の味方だからって、泣いちゃいけないわけじゃない……でもね、私は、君の笑顔が、見たいよ」
「■――」
士郎は頬に伸ばした私の手を握って、顔を歪めた。その体温が、ひどく熱く感じるのは、彼がそれだけ感情的になっているからなのか、それとも、単純に私の体温が低くなっているのか――
「なんで、どうして、お前が、こんな……ッ!」
強く、強く、私の手を握りしめる士郎に、目を細めて、私はゆっくりと口を開いた。
「士郎……悲しむことなんて、ないよ。だって、きっと、私は、魔法そのもの。『この世界』の理を歪めて存在する私を、『この世界』の抑止力は、いずれ、排斥してた」
「何、わけのわからないこと言ってるんだよ……! ■は、■だろ!?」
私を抱く士郎の腕に、力がこもる。
だけど、私は紡ぐ言葉を止めなかった。
「――でも、もし、もしもね、『この世界』の理屈を捻じ曲げて存在している私が、本当に魔法であったのなら、」
“アラヤ”と“ガイア”と呼ばれる――『この世界』を守るための“抑止力”をも、超える“魔法”であったのなら、
「必ず、戻ってくるよ――何があっても、どんな代償を、背負っても」
――救いたくても、救えなかった人たちが、まだ、私には、たくさんいるから。
そう続けようとした言葉は、喉からせりあがってくる液体のせいで、音にできなかった。
「■! もういい、しゃべるな!!」
咳きこむ私を強く腕に抱いて、士郎が叫ぶ。
飛び散った液体が、クマツヅラの白い花を、赤く染める――もう、身体は限界だった。
――おやすみ。いつか、きっと、また。
最期に、それだけを言い残して、私は再び、まぶたを落とした。