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【おそ松さん】哀色ハルジオン

第16章 追想の愛





【おそ松side】



…繰り返し見る夢がある。


鈴が、握っていた俺の手を振りほどき、どこかへ行ってしまう夢。


俺は必死に追いかけて、彼女を探す。そして見つけた時には、すでに手遅れなんだ。


ある時は、ビルの屋上から飛び降りて。


ある時は、自ら首を吊って。


ある時は、死に至る病を抱え、


ある時は、車に跳ねられて死ぬ。


必ず結末は、彼女の死。あと一歩のところで届かずに、彼女は俺の前で無惨に死んでいくんだ。


それだけならただの悪夢だけど、


不思議なことに夢の中の俺は、ここが夢の世界だと理解していて、


彼女が目の前でいかに惨い最期を遂げようとも、一切悲しむことがない。


ただ、何も感じずに、彼女の亡骸を見つめるだけ。


もう、慣れたんだ。


こんな夢を何度も見ていれば、人間どっかが必ず壊れちまう。


現実では、彼女は助かった。今もしっかり生きている。病院だって、会いに行こうと思えばいつだって会いに行ける距離にある。


でも、それができない。彼女に会えない、会いたくない、会わせる顔がない。


だからなんだろうな。


生きているから辛いんだ。死ねばよかったと言うつもりはない。だけど心の内には少なからずそんなドス黒い感情が潜んでいて、その願望があんな趣味の悪い悪夢を作り出すんだ。


そりゃ哀しみだって消え失せる。


今日も彼女は病室で、見舞いに来た弟たちと仲良く話しているのだろうか。


どうせ彼女は俺のことなんて一生思い出さない。


俺が毎晩夢の中で命を落とす君を見ているなんて、知る由もない。


完全に切り離された世界だ。


でも…これでいい。


寝ていた体を起こし、積み上げられたマンガや雑貨を掻き分けてタバコを見つけ出す。一本取り出してくわえると、ライターで火をつけた。


…やさぐれちまったなぁ、俺。クズニートの鑑だわ。


自嘲しながらタバコを吹かす。その時、散乱したマンガの隙間から白い封筒が見えた。


鈴からもらった、俺宛ての手紙。


読んだのは一度きり。シンプルだったから、今でも内容は覚えてる。


¨また会えたらその時は、私の気持ちを聞いてくれると嬉しいです¨


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