第15章 涙
…さて、どっちから渡そうか。
俺はおそ松兄さんがいる部屋と一松がいる部屋の前を行ったり来たりしながら、かれこれ数分思案しっぱなしだった。
どちらも基本引きこもりで、半月以上姿を見ていない。兄さんは何日間か学校に通っていたけど、耐えられなくなったのかまた引きこもりに戻ってしまった。
今さら声をかけたところで、応答はしてくれないと思うけど…彼女の名前を出せば、受け取るくらいはしてくれるだろうか。あー、でも逆効果だったら余計めんどうなことに…
「チョロ松兄さん、さっきから何してるのー?」「うわぁっ!?」
階段からニョキッと顔を出した十四松に驚き、思わず大声を上げて飛び退いてしまう。その拍子に後ろの壁に体を強打して悶絶。さ、最悪なんだけど…!
「あはは!ごめんごめん!大丈夫?チョロ松兄さん」
「い、いや、平気だけどさ…なに、見てたならもっと早く声かけてよ」
「うーん、だってチョロ松兄さん、すごく難しい顔してたから、邪魔しちゃまずいかなって思ったんだ」
「あ、そ、そう…」
って、普通に会話してるけど、この状況まずくない?絶対二人にもろ聞こえだよ?うわぁ、余計怪しまれる…!
「ねぇチョロ松兄さん。その手紙どうしたの?誰からー?」
「ちょ!バカ、十四松!」「え?」
あああ、どんどん状況が悪化していく…!いや十四松だから仕方ないし責めるつもりもないけどさぁ!俺どうすればいいの!
「あ!もしかしておそ松兄さんに渡すの?それとも一松兄さん?」
「い、いや、その…りょ、両方…」
「そうなんだ!二人に渡せばいいんだね!」
早々と事情を理解し、十四松は俺から手紙を奪い取ると、まずはおそ松兄さんがいる部屋の前まで移動した。
「え、ちょ、十四ま…
「おそ松兄さん!えっとね、兄さん宛てに手紙が来てるよ!ドアの前に置いとくねー!」
床に手紙を1通置くと、次は一松の元へと向かう。
「一松兄さん!兄さん宛てに手紙だよ!ドアの前に置いとくから読んでね!」
そしてまた床に手紙を置くと、俺に向き直った。
「はい、おしまい!これでいいんだよね?」
「……あ、ああ…うん…」