• テキストサイズ

【おそ松さん】哀色ハルジオン

第15章 涙





手を繋いで、街を歩く。


ここまでは、いつもと同じ。一緒に帰る時、おそ松くんとは毎回手を繋いでいた。


駅に着いたら離れるのが寂しかったな、なんてふと思い出す。


でも今日はその駅すら通り過ぎて、さらに先まで歩く。


…本当は、お気に入りの場所なんてない。


こうして二人で手を繋いで歩くのは、もしかしたら最後になってしまうかもしれないから、


できるだけ知らない道を、できるだけ長い時間をかけて通って、


少しでもいい…彼のぬくもりを感じていたい、なんて。


わがままがすぎるよね。


人通りが減っていく。この辺りは全然知らない場所。閑散とした住宅街も抜けて、田んぼや畑が見えてきた。


…もしかしたら彼はもう、気付いているかもしれない。ただ私たちは宛もなく歩いているんだってことを。


けれど何も言わずについてきてくれる。そういうところ、おそ松くんらしい。


そんな目的地のない小さな旅の終点は、


広い広い、コスモス畑だった。


「わぁ…っ!何ここ!」


「すっげぇ…」


都心から離れたとはいえ、まさかこんな場所にコスモス畑があるとは思わなかった。ピンク色の可愛らしいコスモスが咲き乱れて、そよ風に揺らいでいる。


「そっか、今ちょうど時期だもんね。綺麗だなぁ…」


思わず景色に見とれていると、おそ松くんが尋ねてきた。


「ここがお気に入りの場所なんじゃねぇの?」


「!あ、えっと…」


どうしよう、なんて言えば…偶然見つけましたって素直に言うわけにもいかないよね。


「そう悩むなよ。お前が嘘ついてこんなとこまで来ちまったことくらい、俺とっくに気付いてるしな」


「えぇ!」


彼は頭の後ろで両手を組みながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。…やっぱり彼には敵わないや。


「でも、どうして」


「うん?だってさー、お気に入りの場所なんかあるなら、今まで俺に教えてくれなかったのが不自然じゃん。どうして今さら?って思ったわけよ」


な、なるほど、確かに。


納得している私の横で、彼はコスモスを一輪摘み取った。


「鈴、こっち向いて」


/ 236ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp