第7章 雨よ止まないで<石田三成>
「三成君、今日もし良かったらお出かけしない?」
書物から顔を上げたタイミングで、少し前から三成の部屋を訪れていた桜が声をかける。かけていた眼鏡を外しながら、天使のような微笑みを浮かべた三成は、頷く。
「桜様のためなら、いつでも」
「ほんと?じゃあ…今から」
それからすぐ支度を調えて、二人で城を出た。
とはいえ桜にも特に用事があったわけでもなく、ただ三成に気分転換をさせたかったのだと、散歩がてら歩きながら呟く。
足は自然と、町ではなく木々のある方へと向かっていた。
「最近部屋からもあまり出ていなかったようだから…心配で」
「桜様は、本当に心がお優しいですね」
「そんなこと…」
照れたように頬を染めて隣を歩く桜の姿に、心臓がとくとくと音を立てる。右手を伸ばして、そっと桜の手と絡めた。優しく握り返してくれる小さな手は温かい。
心地の良い沈黙が下りる中、触れ合う温かな手の感触だけを感じて、二人は歩いていく。
その内、建物などない草木の茂る場所に出た。どちらともなく足が止まり、草花の間を吹き抜ける風が湿っているのを感じて目を細める。
「天気が崩れそうですね。戻りましょうか」
「…うん…」
桜を雨で濡らしたくない気持ちから出た言葉に、桜が本当に残念そうに肩を落とす。久しぶりにできた逢瀬は、ただ二人黙って歩くだけの物。でもそれがとても心地よくて、幸福で。
三成にとってもそれは同じだったから。
「…もう少しだけ…」