第1章 名前を呼んで
「こんにちは、お届けに来ました。」
は、恒例となった出前を手に、
新選組の屯所を訪れていた。
いつも近藤がいる奥の部屋に声をかけ、
返事を確認してから開ける。
近藤「おう、桜。悪いなぁいつも。」
「いいえ、仕事ですし、楽しいですよ?」
立ち上がった近藤が、
を招き入れながら後ろ手に襖を閉めた。
いつもなら開けたまま少しお話しして、すぐに帰るのに。
は内心首を傾げつつ、持ってきた風呂敷を解いていく。
「これで、全部です。」
近藤「ありがとう、また頼む。」
「はい。じゃあ、私はこれで…。」
失礼します、と言いながら襖を開けようと立ち上がると、
傍まで来ていた近藤が、の右手を優しく掴んだ。
はっとして顔を上げたの顔を、
そのままじっと見つめてくるから、
は速くなる鼓動に耐え切れず口を開く。
「あの…近藤、さん…?」
近藤「…俺と」
その瞬間、が背にしていた襖が
轟音を立てて開かれた。
びくっとして振り向くと、
そこには土方が立っている。
土方「…何してんだ、近藤さん。」
不機嫌な顔を隠そうともせずに近藤に詰め寄ると、
土方は、の手をもぎ取るように近藤から離した。