第6章 対価
『…………ほら、見て……あの子よ……』
『……お労しい………1人だけなんだって?』
声が、聞こえる。
憐れむ声が。
『酷いね………で、引取りは?』
『家にはそんな余裕ないよ………あぁ、確か……さんの所が……』
『ダメダメ……あそこも………… だよ…』
聞こえる。
面倒くさそうな、表面のやり取りが。
『お前、親居ないんだってな!』
『こっち来るなよ!うつるだろ!』
聞きたくない。
非難、中傷の声が。
『…………はぁ…はぁ…はぁ…か、か、かぃり…くんっ…!!』
『…………君は、いらない子なんだよ。……生まれて来なければ良かったのに……クスクス…』
やめてくれ
聞きたくない
『…………浬…………』
壊れる
嫌だ
置いていかないで
ひとりにしないで
ひ と り に し な い で
ーーーーーーーー
「っ……!!!!」
ガバッ!!
「うわっ!?び、びっくりした……浬……?」
勢いよく起き上がった俺を見て、ちょうど部屋に入ってきたらしい佐々木が驚いた声をあげた。
…………夢……だったのか…?
恐ろしい夢を見ていた気がしたが……
全身が汗でぐっしょり濡れていて、素肌に服が張り付いて気持ち悪かった。
ぼーっと上半身を起こしたままでいると、佐々木がいつの間にか隣に腰掛けてこちらにタオルを差し出してくれた。
「……凄い汗だぞ……大丈夫か?」
心配そうにこちらを見つめてくる佐々木には悪いが、上手く反応できず固まったように虚空を見つめていた。
すると、ふわっと珈琲の香ばしい優しい香りがして、ふとそちらを向くと佐々木が上品なカップにブラックの珈琲を注いでいた。
湯気が上がり、暖かそうなイメージがした。