第1章 眼鏡の下
まだ不思議そうな顔をしている彼の頬から、片手を後頭部に移す。男なのに髪がさらさらで羨ましい。
少し背伸びして、形の良い唇を奪った。
こんな時間じゃ人も居ないし、薄暗いから見えないだろうと信じて。
「っ……」
唯くんが漏らす小さな吐息が可愛い。
私は唯くんの滑らかな舌まで必死になって求めた。
暫くして漸く彼を解放する。
「はは、どう?」
唯くんはいつも眼鏡の奥で光らせている瞳を柔らかく揺れさせて私を見ていた。
振られちゃうかな。でも、私はどうしても、こんな事をいきなりしてでも言いたい事があったの。
「これが大人かどうかは判らないけど……」
唯くんに眼鏡を返して視点の合った彼に微笑んだ。
「好きな男以外にこんな事するほど、軽い女じゃないわよ、私」
そして彼の胸に寄り添う。何となく鼓動が聞こえてきそう。
「ごめんね、寂しい思いさせて。私、ちゃんと男の人として唯の事好きだよ」
「晶……」
「可愛いって言うのも、本気の誉め言葉なの。だって、そんな唯くんに惚れてんだもん」
「…………」
唯くんの腕が、優しく私を包み込む。あったかい。
「……俺も、ごめん。もっと晶に会いたくて、釣り合う男になりたくて、焦ってた」
私は唯くんの腕の中で顔を上げた。唯くんはそっぽを向いている。
「釣り合うどころか、唯くんは私にとって天使級だよ」
「天使? 変な例え」
「何とでも言いたまえ」
そして、またギュっとした。
いつもクールな眼鏡の向こうには、こんなあなたも居たんだね。
ごちそうさまでした。