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第28章 少女のいる世界


「下がってんのは下がってっけど、三十八度台から下がらねぇな…」

『…ごめんなさい』

「なんで謝んだよ、俺のためにって頑張ってくれたんだろ?」

ちょっとお前の場合は頑張りすぎちまうんだけどな、なんて笑いながら撫でる彼に、心が軽くなる。

本当、上手いんだから。

「にしても、そろそろアイスでも食うか?気分転換に」

『!!あるの!?』

「おおっ、食いついた。あるぜ、食堂に」

正確に言えば、食堂に設けられた私用の冷蔵庫に。

あの首領でこの幹部だからなぁ…

「ついでに経口補水液と冷却シートも持ってこねぇとだし、急いで取ってくるから少しだけ待ってろ」

『いや』

「…病人は横になってて下さいませんかね?」

『中也が行くのに蝶だけここにいるのおかしい。行く』

「あのね蝶さん、動いたら熱上がるの。オーケー?」

『中也さんいなくなったら蝶死んじゃうの。オーケー?』

互いに見合って、しばしの沈黙。
しかし、この執務室からだと高低差も距離もある食堂だ。

中々この親バカ変態中也さんは了承してはくれない。

「…ちょっと待ってればすぐじゃねえか。本気で行くから三十秒もありゃ帰ってきてやるよ」

『十五回は死ねる』

「二秒換算やめろ」

頭を抱える彼は、くるりとこちらを向き、私に自分の外套をかける。
そして一言。

「これ好きなようにしてていいから」

『…』

幹部という立場にある中也の外套を奪い取ってしまっては、それ以上は中々口が出せない。
布団を剥いで中也の外套にくるまると、彼は執務室を出る覚悟を決める。

ほんとに三十秒で帰ってくる気なんだ。

「待ってろよ、すぐに戻ってきてやるからな…ッ!!!!」

異能を使って、本気で走り出す。
その直前、何かに気が付いて彼は咄嗟に異能を解除する。

「……お、まえ…っ」

『?何…なんでこっち…、に……ぁ…、』

ごめんなさい。
ちゃんと言ってから、手を離す。

彼の上着に伸ばしていた手を手元に戻してから、そしてやはりまた懇願する。

『…縛ってて。いい子にできないから』

「……いい子じゃん、お前。だからそんなに苦しいんだよ」

『…』

「そんなにあれなら…あんまこういう使い方はあれだけど、お前の能力で直接冷蔵庫に繋げてくれるか?」

それなら一緒にいてやれる。

聞こえた瞬間、たくさんの蝶が舞い始めた。
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