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第28章 少女のいる世界


手を退かせるとまた散々に口つけられて、そんなこんなで迎えた朝。

「卵はオムレツか目玉焼きかどっちがいい?」

『……オムレツって、何?』

「え?…えっ、お前オムレツ好きじゃなかったっけ」

『?覚えてない』

「!…ちなみに聞くけど、お前って料理得意だったりする?」

唐突な質問にきょとんとしながら首を軽く傾げる。

『苦手って程じゃないけど…中也さんみたいに上手にはできないよ』

「…そ、うか…?」

今でも、俺よりお前の方が数倍上手いはずなのに。
なんて呟いた中也さんに、目を丸くした。

初耳だ、料理が得意だっただなんて。

『へえ、そうなんだ。…いつ覚えたんだろ、そんなの』

尸魂界を追放されてからなのは間違いない。
けれど、今のこの人の数倍だなんて、そんな熟練度普通じゃない…いつだ、身につけたのは。

そして、いったい“どれだけ”経っている…どれだけ、年月が経っている。

『……私が好きな方って、どっち?』

「…毎度の如く、確認してもいっつもオムレツって答えてるよ」

『じゃあ、オムレツ!食べてみたい!』

「了解…作ってる間に着替えでも済ましとけ」

『はー……、…』

返事は、できなかった。
そうだ、そういえば私って…この世界でいったい、何をして生きてきたんだろう。

ポートマフィアの構成員…?
なら、正装をすればいいのだろうか。

「…蝶?」

『え、…ぁ…ううん、何でも「どうした?」え、っ…いや、だからなんでもないですって言って、…ッ』

屈んでまた、目線を合わせてくるそのひと。
思わずたじろいで、ごまかせなくなる。

「お前の何でもないは信用してねえから安心しろ。何かあるんだろ?」

『…あ、の…私、今日何着たらいい…ですか』

「ああ、そういうことか。…お前は今日、何したい?どこか行きたいところとかある?」

『へ!?い、行きたいとこ、ろ…?』

しなければならないことが、あるんじゃないかと身を固くしていたのに。
私が望んでも、いいの?

私が、何かを強請っても…いいの…?

「おう、どこでもいいぞ。お前今もう春休みで学校もねぇし」

『学校…、?…私、学校行ってたの?』

戸籍、無いのに。
作れないのに、日本じゃ。

思い当たったのはそんな知識。
あれ、なんで私そんなこと知ってるんだろう。

「行ってた…春からは高校生だしな」
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